昔作った曲の話「幼い手の先」

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 大学時代の話。

 アコギ1本で路上ライブをやっていた。へたくそで容姿も悪いからファンなんてできなかった。需用がないところに投げ続けるボールは、だいたい校庭のすみに転がって腐っていくけれど。

 僕は音楽や、その気持ちの吐き出す行為が好きだったので、延々と歌い続けてはボールを腐らせていた。ひたすらオリジナルを作った。ミスチルとかバンプとか19とか歌った。大宮駅とか赤羽駅の前で、わんわんと歌った。

 

 あと「すがる」って意味が大きかったと思う。チビだし、顔は悪いし、バカだし。自分の中のほかのひとより出来るかなあってのがアコギを弾くことだけだった。
 それでももちろん上手くもないし、たまーに通行人が足を止める。そしてスルー。そんな路上をずっとやっていた。 

 

 でもこの頃、はじめて物語みたいな曲を起承転結で書く事が出来た。自分でも感動した。書ききれた。なんか今までの作ってきたものと違った。散文みたいな歌詞じゃなくて。きちんと完成していた。「幼い手の先」というタイトルだった。

 

 こんな歌。

 秘密基地を作った男の子がいて、毎日そこにあしげく通う。 自分の大切なモノをそこで作り続けて、翌日そこに向かうと
 大きなショベルカーが大切な基地を壊している。「それはごみじゃないんだよ ぼくにとってたいせつなものなんだよ こわさないで」と幼い手を必死に鉄柵から伸ばそうとする、でも何もできない。そんな、男の子が大人になるみたいな、そんな曲。


 その曲をぽつぽつと路上で歌うようになった。そして足を止めてくれた1歳年上の女の人がいて、その人が俺のファンになってくれた。

 相変わらず下手だったけど1週間に一度、その人は来てくれた。なんで毎回来てくれるんですか?と聞いた。そしたら「幼い手の先って曲が、歌詞がすごい悲しくて切なくて好きになりました」と言ってくれていた。
 
 そのあと僕はなんやかんや路上をやらなくなった。あの人は元気だろうか。懐かしくて、うれしくて、大切なお守りにしている思い出です。また明日。