乱暴な恋

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 ひさびさにジョギングをしたくなって、四時ごろマンションを出た。

 深夜なのか、早朝なのか。朝日はまだやってきていない。
 空は曇っていて、星もない。明かりはアパートの通路を照らす蛍光灯。
 誰かが暮らす部屋から漏れるいくつもの明かり。
 電柱。フットライト。たまに通り抜ける車のヘッドライト。
 

 その真ん中の曖昧な時間に公園の真ん中を突っ切ろうとすると
おそらくカップルがお互いの体重を預けあっていた。
 さすがにこんな時間には人はいないと思っていたから、ぎょっとしてしまった。

 十一時や十二時くらいなら、いちゃ付き合ってるで通るけれど、時間はもう朝方に
かかろうとしているのに、屋内にも入らずに抱きしめあっている理由とはなんなんだろう。

 外見はわからないけれど、とても若い子たちでお互いの家には両親がいるからとか? 
 別れ話でもしていて、結果仲直りしてその場所から動くことで何かが終わるような
雰囲気になってしまっていたとか? 
 もちろん適当な想像でしかない。確かに外は少し着込んでいれば寒くも熱くもない。
 逆にその、型に入ってない感じが、なんだか青春を感じた。

 もちろん気づかぬふりで通過した。
 たったかと一直線につらくない程度で走った。最近筋トレくらいしかしていなかったから、
体が重かった。体についてるぜい肉が邪魔だと思った。

 高校生のころ、テニス部だった僕は校庭のまわりを肺を痛くしながら走っていた。
 今はベッドタウンの暗闇でカップルを見かけて逃げるみたいに走っていた。
 無鉄砲な好きって感情があったころを思い出した。

 二つ折りの携帯電話を握って当時好きだった女の子と会話をしながら、公園の砂場を
ぐるぐるぐるぐると永遠に回っていた。「うん、うん」としか言えないことが情けなかった。
 ぜえぜえと軽く息を切らした。体が少しだけ熱くなってきた。

 出発してから十分を経過したから、折り返した。
 家から一番近い公園ではまだカップルが抱きしめあっていた。
 乱暴な恋みたいなものが少し羨ましく感じた。

 部屋に帰ると気分がよかった。ジョギングは日課にしようと、Tシャツを脱ぎながら思った。